1921年、今年はインスリン発見100年目にあたり、5月の日本糖尿病学会学術総会(会長:富山大学第一内科戸邉一之教授)においてもこれを記念する企画が設けられた。
糖尿病の存在は古くからエジプトのパピルスにも記載されており、有名なのは紀元2世紀カッパドキアの医師アレタイオスの記載、「水道の邪口が開けっ放しのようで尿が出るのを止めることができない、体や手足が尿に溶け出してしまうかのようである、命は短し」と、糖尿病の臨床像が美しいまでに的確に表現されている。
糖尿病とは、昔からその存在は知られていたがどこに原因があるのかわからず、長らく「所在の無い」病気とされていた。西暦1800年代後半に入るとランゲルハンスが膵臓の組織の中に周囲の細胞とは異なる細胞集団が島状に散在しているのを発見、今では彼の名を冠してランゲルハンス島と呼ばれているがインスリンはここから分泌されている。また、それに続いてミンコフスキーとメーリングは犬の膵臓摘出によって実験的に糖尿病作成に成功した。このようにして糖尿病と膵臓との関連が明らかにされた。
1921年カナダトロント大学の外科医バンティングが、まだ学生であったベストと共に行った膵摘糖尿病犬へ膵抽出物の注射により血糖値が低下し、犬が生きながらえることができたことを11月にトロント大学で開催された生理学会で発表した。これがインスリン発見である。そして翌22年1月にトロント総合病院に入院していた糖尿病患者にこの膵臓エキスが毎日注射され血糖値が低下、状態が改善した。これが人での最初の治療である。この治療は、高血糖から昏睡、死に至る重症糖尿病の人の命がこれ以降、数限りなく救われることになった「バンティング・ベストの奇跡」である。
1991年、国際糖尿病連合 (IDF)と世界保健機関 (WHO)が、糖尿病は未だ完治する病気ではなく世界共通の病気としてその脅威に対応するため「世界糖尿病デー」を11月14日として提唱、2006年には国連で公式に認定された。11月14日はインスリン発見のバンティングの誕生日であり、これはバンティングの功績を称えるものである。
おおがくクリニック 院長 大角誠治